「ゴキブリがいなくなるスプレーの効果について、専門家としてお話しさせていただきます。まず、これらのスプレーは、正しく使用すれば一定の効果が期待できることは確かです」と語るのは、長年害虫駆除に携わる専門家の田中氏(仮名)だ。「主な有効成分であるピレスロイド系殺虫剤は、ゴキブリの神経系に作用し、速やかに麻痺させる効果があります。待ち伏せ効果を謳う製品は、壁や床に薬剤を付着させ、そこを通過したゴキブリを駆除することを目的としています。ゴキブリが潜んでいそうな場所や通り道にあらかじめ噴霧しておくことで、遭遇率を減らす効果は期待できます」。しかし、田中氏はその限界も指摘する。「『いなくなる』という表現から、家から完全にゴキブリが消え去ると期待される方もいらっしゃいますが、現実はそう単純ではありません。スプレーの効果は、噴霧した場所に限定されます。家の中にすでに巣があり、繁殖している場合、スプレーされていない場所にいる個体や、新たに孵化した幼虫には効果がありません。また、外部からの侵入が続く限り、スプレーだけでは根本的な解決には至らないのです」。さらに、薬剤抵抗性の問題も無視できないという。「近年、特に都市部では、従来のピレスロイド系殺虫剤が効きにくい『抵抗性ゴキブリ』が増加しています。もしスプレーをしても効果が見られない場合は、この可能性も疑う必要があります。その場合は、作用機序の異なる他の殺虫成分を含む製品を使用するか、毒餌剤(ベイト剤)や捕獲器など、別の駆除方法を検討する必要があります」。では、スプレーを効果的に使うにはどうすればよいのだろうか。「重要なのは、スプレーを単独の対策とせず、総合的なゴキブリ対策の一部として位置付けることです。まず、ゴキブリの餌となるものをなくし、住処となる場所を減らすために、徹底的な清掃と整理整頓を行うことが基本です。次に、換気口や配管周りなど、外部からの侵入経路を特定し、物理的に塞ぐこと。その上で、ゴキブリが潜みやすい場所や通り道に、補助的にスプレーを使用したり、毒餌剤を設置したりするのが効果的です。スプレーは、あくまでゴキブリを寄せ付けにくくしたり、目の前の個体を駆除したりするためのツールの一つと考えるべきでしょう。根本的な解決を目指すなら、環境整備と侵入経路対策が最も重要です。