ここ数週間、私は自分の部屋で奇妙な気配を感じていました。気のせいだと思おうとしても、ふとした瞬間に視界の端を何かが横切ったような気がしたり、静かな夜に壁の向こうから微かな物音が聞こえたりするのです。もちろん、確たる証拠はありません。ただ、言いようのない嫌な予感が、心の隅にずっと居座っていました。その正体がはっきりと分かったのは、ある蒸し暑い夏の夜のことでした。夜中の二時過ぎ、喉の渇きを覚えてベッドから起き上がった私は、明かりもつけずにそろそろとキッチンへ向かいました。静まり返った部屋は暗闇に包まれています。冷蔵庫を開ける前に、何気なくキッチンの電気のスイッチに手をかけ、パチリと音を立てて明かりを灯しました。その瞬間、私は息を呑みました。白いタイル張りの壁を、一匹の黒く艶のある物体が、信じられないほどの速さで駆け抜けていったのです。それは紛れもなく、私が見たくなかった、しかし心のどこかで予期していた存在、ゴキブリでした。彼は一瞬でコンロの裏の隙間に姿を消し、後には私の凍りついた心と、早鐘のように打つ鼓動だけが残されました。あの瞬間の衝撃と嫌悪感は、今でも鮮明に思い出せます。しかし、それと同時に、「やっぱりいたんだ」という妙な納得感があったのも事実です。私の感じていた気配や物音は、すべて気のせいではなかったのです。この出来事を通して、私はゴキブリの生態を身をもって学びました。彼らは完全な夜行性であり、人間が寝静まった深夜にこそ、堂々と活動を始めるのだと。日中に彼らの姿を見ることがないからといって、決して油断してはならないのです。もし、あなたも私と同じように漠然とした不安を抱えているのなら、一度、深夜に抜き打ちで部屋の明かりをつけてみることをお勧めします。それは、知りたくない真実を目の当たりにする行為かもしれませんが、見えない敵と戦うための、最も確実な宣戦布告になるはずです。
深夜のキッチンで私は真実を知ってしまった